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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)129号 判決

大分市大字海原字地浜九三四番地

上告人

大栄建設株式会社

右代表者代表取締役

小野英治

右訴訟代理人弁護士

岩崎哲朗

大分市中島西一丁目一番三二号

被上告人

大分税務署長

後藤増雄

右指定代理人

東清

右当事者間の福岡高等裁判所昭和五八年(行コ)第一〇号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五八年九月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件上告を棄却する。

二  上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩崎哲朗の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実認定の不当をいうか、又は原審の認定しない事実に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 矢口洪一)

(昭和五八年(行ツ)第一二九号 上告人 大栄建設株式会社

上告代理人岩崎哲朗の上告理由)

原判決は法人税法第三五条の規定の解釈、適用を誤った法令違背があり、この法令違背は、原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 原判決は次の事実認定をしている。

(一) 原告は、その定款において、取締役の報酬は株主総会の決議によって定めるとしていたが、昭和五〇、五一年度は株主総会の決議を経ずに創立総会で定められた限度内において、代表取締役小野に報酬を支給していた。

(二) 昭和五二年度は、同年六月二五日の定時株主総会において小野に対する報酬額を四〇〇万円以内と定め、同人に対し同年四月に二六万四〇〇〇円、五月から一二月まで毎月二七万七二〇〇円、昭和五三年一月から三月まで毎月三三万円の合計三四七万一六〇〇円を支給した。

(三) 本件事業年度は、昭和五三年六月二五日の定時株主総会において小野の報酬額を一〇〇〇万円以内と定め、同人に対し同年四月から一二月まで毎月三三万円、昭和五四年一月から三月まで毎月三九万円の合計四一四万円を現実に支給した。そして、事業年度末の同年三月三一日に至り小野に対する報酬九六〇万円の内の未払い分として五四六万円を計上したうえ、同年六月三〇日に二〇〇万円、七月三一日に二〇九万五〇〇〇円、一一月二日に一三六万五〇〇〇円を支払った。

二 外形的事実としては右の通りであるが、上告人は合計処理は右の小野に対する支払について次の通り行われている。

昭和五三年六月二五日の定時株主総会において小野の報酬額を一〇〇〇万円以内と定め、同人に対し同年四月から一二月まで毎月三三万円、昭和五四年一月から三月まで毎月三九万円を内払いとして支納し、事業年度末の同年三月三一日に小野に対する報酬九六〇万円の内の未払分を五四六万円計上した。そして、資金繰りの都合により、同年六月三〇日に二〇〇万円、七月三一日に二〇九万五〇〇〇円、一一月二日に一三六万五〇〇〇円支払ったのである。

三 従って本件の争点は、上告人が代表取締役小野英治に対して役員報酬の内払いとしてなした昭和五三年四月から一二月までの月額三三万円の支払い及び昭和五四年一月から同年三月までの月額三九万円の支払いと右期間内の未払金として事業年度末に計上された未払金五四六万円の支給が役員報酬か役員賞与かという点に存する。

四 ところで上告人の場合の役員報酬の合計処理は中小企業の常態よりして、一部内払形式をとり、事業年度末未払金計上の形態を現にとって来ている。

即ち、甲第一四号証乃至甲第一七号証は取締役萩野に対する役員報酬の支払方法を示すものであるが、一部内払で各月未払金につき年度末一括払いの報酬の形式をとっていて本件小野の報酬の場合とこの点同様である。このことは逆に、本件の如き役員報酬の支給形態である一部内払未払計上方式が会社においては別に異とする支給形態でないことを示している。取締役萩野に対する役員報酬は昭和五二年度分として、昭和五二年四月二五日に一部金一一万五〇〇〇円、昭和五二年七月一四日に一部金一六七万八〇〇〇円、昭和五三年三月三一日に未払計上の上現金七〇万七〇〇〇円が各支払われているのである(同人の証人調書二七項以下)。

五 更に小野英治に対する取締役報酬の昭和五二年度と昭和五三年度の比較をするだけで本件未払金計上分五四六万円については役員報酬であることが明白になる。即ち、昭和五二年度は株主総会で小野に対する報酬額を四〇〇万円以内と定め実際には三四七万一六〇〇円支給している。昭和五三年度は、わざわざ株主総会で小野に対する報酬額を上げて一〇〇〇万円以内にする旨定めているのである。当然前年度の支給実績と比較して報酬額の増(この場合月額八〇万円)額を前提としていることは明らかである。

上告人の如き、中小企業においては、役員報酬の定めがあっても業績の悪いときには報酬辞退が行われたり、当初予定された報酬については一部内払いにしたり、不定期の支払いで資金繰りのついたときに未払金を支払うというのが常態である。

会社においては、小野英治の月額報酬を三三万円あるいは三九万円と定めていたわけではなく、一〇〇〇万円の範囲内の金九六〇万円を報酬としてとりあえず生活に最低限度必要な額を現に一部内払金として支給してきたにすぎない。中小企業においては、たとえ年額報酬を定めていても月々それを一二等分して支払うということは、困難な場合もあり実際上行われていない場合もある。月額一部内払金を報酬として支払っていてもそれはまさに一定支給額の内払いとしての意味しか持ち得ないのである。会社の役員報酬及び支給額の推移を見ると甲第一八号証のように支給枠及び現実の支給額が増加してきており、それは、総売り上げ高に相応して来ている。

而も、現実のこれまでの支払方法が不定期もあったことを考慮に入れれば、昭和五三年度の小野英治に対する役員報酬を、月額八〇万円年間九六〇万円と定めとりあえず必要額のみを内払いとして支給した事情は充分理解でき、昭和五三年度の未払金一括計上の措置はこの定期給与の未払金を計上したのにすぎず、法第三五条四項にいう「臨時的な給与」には該当しないこと明らかである。

六 原審は一般に、役員報酬は役員の通常の業務執行の対価であって、事業経営上の経費から支出されるのに対し、役員賞与は利益獲得の功労に対する報償であって利益金の中から与えられるものであるとされるとし、このように役員報酬と役員賞与とは性質を異にするものであり、それ故、法人所得の計算上も前記の通りその取り扱いを異にしているのであるが、現実に役員に支給される給与が業務執行の対価であるか否かを判別することは必ずしも容易ではなく、また、利益処分として支給すべきものを安易に報酬化することによって課税を免れる場合も考えられるとしている。

然しながら、右に述べた如く、上告人が年度末に未払金計上をした五四六万円はその実態を見れば業務執行の対価たる役員報酬の性格を有すること明らかである。

右のことを前提に考え、一部内払いとして定期的給与の一部支払いをなした上告人の場合、決して単に支給形態が臨時である給与と云うことはできず、上告人の本件未払金計上は会計処理基準に則した措置であり、定期の給与に該当するものと云うべきである。

以上

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